「腸腰筋(ちょうようきん)を意識して〜」
ヨガのレッスンで、よく耳にする言葉です。大事な筋肉らしいことは、なんとなく分かる。でも、「それって体のどこにあるの?」と聞かれたら——答えられますか?
……実は私、うまく説明できませんでした。管理栄養士で、ヨガの資格も持っているのに、です。正直に言うと、最初は「腸活筋」だと思っていました(笑)。よく耳にするじゃないですか、「腸活」って。
きっかけは、夫の腰でした
私の夫は、腰に持病があります。
そのため、自分の体は自分で管理しようと、お風呂の前後にストレッチや自重トレーニングを続けています。誰かに言われたわけではなく、自分で選んで続けている習慣です。
ただ、見ていると、膝の裏がなかなか伸びない。前屈をしても、太ももの裏がつっぱってしまうんです。
「体、硬いな。何か、うまいアドバイスをしてあげられたらいいのに」——実は前から、そう思っていました。
ヨガのレッスンで「腸腰筋」という言葉を聞くたびに、「腰と関係があるらしい」ということだけは耳に残っていて。そこで今回、腸腰筋についてきちんと調べてみることにしました。
この記事で分かること
- 腸腰筋はどこにある? 名前の「腸」の正体
- 腰から脚の付け根まで。腸腰筋の働きと、よく動かしておくといいこと
- 腰に持病がある人は、「鍛える」より先に大切なこと
- 膝の裏が伸びなくてもできる、やさしい3つの動き ← ここがいちばんの発見でした
- やめたほうがいいサインと、受診の目安
腸腰筋って、どこにあるの?
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、腸腰筋は「太腿を前に振りだす、下腹の深部にある」筋肉です。
腰の骨にくっついて、脚の付け根まで伸びている筋肉です。歩くときに脚を持ち上げたり、腰まわりを支えたりしながら、上半身と下半身をつなぐ大切な役割をもっています。

「腸」の正体は、骨盤の骨でした
そして、私が勘違いしていた名前の話です。
腸腰筋は、**大腰筋(だいようきん)と腸骨筋(ちょうこつきん)**という2つの筋肉を合わせた呼び名です。
この「腸骨」は、骨盤をつくっている骨のひとつ。厚生労働省の「人体各器官名称」の骨格図でも、腰椎・仙骨・坐骨と並んで「腸骨」が載っています。
つまり、腸腰筋の「腸」は、おなかの腸ではなく、骨盤の骨「腸骨」のほうだったんです。
腸腰筋は何をしている? よく動かしておくと、何がいい?
腰の背骨から、脚の付け根まで
腸腰筋のうち大きいほうの大腰筋は、腰の背骨(腰椎)から始まり、太ももの骨の付け根で終わる、とても長い筋肉です。腰椎のひとつひとつに、広く付いているのだそうです。
そして、その外側に腸骨筋が寄り添い、2つがいっしょになって腸腰筋として働きます。
腰の背骨から、おなかの奥深くを通って、脚の付け根へ。上半身と下半身をつないでいる筋肉なんですね。

何をしている? ①脚を持ち上げる
腸腰筋のいちばんの仕事は、股関節を曲げること。つまり、太ももを持ち上げる動きです。
日本義肢装具学会誌の解説では、股関節を曲げる「重要な屈筋は腸腰筋」とされています。歩くときも、つま先が地面を離れてから脚を前へ振り出しはじめるところで働いています。
「脚を引き上げる筋肉」というのは、私も知っていました。まさに、その働きですね。
何をしている? ②腰と骨盤を支える
調べていて、いちばん「なるほど」と思ったのがここです。
バイオメカニズム学会誌に載っていた、大腰筋の働きを体のモデルで調べた研究によると、大腰筋には、腰の背骨を支える力を高める作用があり、腰椎と骨盤を安定させながら、股関節を曲げる働きをもつと考えられています。
さらにこの研究では、大腰筋は四本足の動物にくらべて、ヒトで著しく発達していること、そして二本足で立って歩くヒトの体に合った形と働きをもつことも述べられていました。
腰の背骨から始まる筋肉だから、腰と関係がある。ヨガのレッスンで耳にしていた「腰と腸腰筋」の話が、ようやくつながった気がしました。

よく動かしておくと、何がいい?
e-ヘルスネットでは、腸腰筋などが発達しているほど、歩幅が広く、歩く速度が速くなること、そしてしっかり足を振り出せることで、転倒のリスクが下がることが分かっている、とされています。
裏を返せば、この筋肉がうまく働かないと、足をしっかり振り出しにくくなるということ。健康長寿ネットでも、足を上にあげる大腰筋が萎縮すると、歩く力の低下に関連するといわれています。
年齢とともに体力の変化を感じる40代・50代にとって、見逃せない筋肉です(体力の話は、体力の衰えを感じてきているあなたへでも書きました)。
ちなみに、「膝の裏」は別の筋肉です
ひとつ、調べていて整理できたことがあります。
夫の「膝の裏が伸びない」は、**太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)**の話。腸腰筋とは、別の筋肉なんです。
私は、どこかで「腰が悪いから、脚の裏も伸びないのかな」と、ひとまとめに考えていました。でも、場所も働きも違う。まずはここを分けて考えることが、大事な一歩でした。
腰に持病があるなら、「鍛える」より先に
「腰痛がある人は、腸腰筋などの腰回りの筋肉を鍛えるといい」——ヨガのレッスンで、そんな話を聞いた覚えがあります。
調べてみると、半分は合っていて、半分は違いました。
体を動かすことは、勧められている
日本整形外科学会と日本腰痛学会が監修した「腰痛診療ガイドライン2019」では、長く続く腰痛(慢性腰痛)には、運動療法が有用とされ、強く推奨されています。
ただし、同じガイドラインには「どの運動療法がよいかは、現在もなお明確でない」とも書かれています。「この筋肉を鍛えればいい」と、決まっているわけではないんですね。
まずは「緩める」
そして、いちばんハッとしたのがこの一文です。日本理学療法士協会の「理学療法ハンドブック 腰痛」にありました。
背中や腰の筋を鍛える必要がある?
鍛えることよりも、過剰に力をいれないように、まずは筋肉を緩めることが大事です。
「鍛えなきゃ」ではなく、まず緩める。痛くない範囲で、動かす。
腰に持病がある夫にとっても、読者のみなさんにとっても、ここがいちばん大事なスタート地点だと思いました。
とくに、腰の手術を受けたことがある方は、どんな運動が合っているか、一度主治医に相談しておくと安心です。
私が思い浮かべたのは「船のポーズ」。でも夫にはキツすぎる
「腸腰筋を使う動き」と聞いて、私がまっさきに思い浮かべたのは、ヨガの船のポーズでした。

座った姿勢から、上体を少し後ろに倒して、両脚を持ち上げる。体で「V」の字をつくるような、あのポーズです。めちゃくちゃ腸腰筋を使います。
でも、夫の姿を思い浮かべて、すぐに「これは無理だな」と思いました。
脚をまっすぐ伸ばしたまま持ち上げるのは、膝の裏が伸びない夫には、キツすぎる。しかも腰に持病があるので、上体を支える姿勢そのものが負担になりそうです。
「もっとやさしい方法は、ないのかな」
そう思って、探してみました。
膝を伸ばさなくても、腸腰筋は使える|やさしい3つの動き
見つけた3つの動きは、どれも膝を曲げたままできるものでした。
膝の裏が伸びなくても、腸腰筋のまわりは動かせる。これが、今回いちばんの発見です。
始める前の、3つの約束
日本理学療法士協会の資料と、e-ヘルスネットに共通していた注意点です。
- 痛みを感じるほど伸ばすのは逆効果(痛いほど伸ばすと、かえって筋肉が硬くなる)
- 呼吸を止めない
- 痛みが増したら、すぐに中止して、理学療法士や医師に相談する
① 椅子もも上げ(腸腰筋を「使う」)
健康長寿ネットで、大腰筋のトレーニングとして紹介されている動きです。
- 椅子に座り、両手で座面を軽く押さえる
- 片脚ずつ、太ももの裏が椅子から離れるように持ち上げる
- 体をやや前かがみにして、おなかに力が入っていることを確かめながら行う
回数の目安は10回です。膝は曲げたままなので、膝の裏の硬さは関係ありません。

② 股関節の前を伸ばす(腸腰筋のまわりを「伸ばす」)
日本理学療法士協会の「理学療法ハンドブック シリーズ17 変形性股関節症」で紹介されているストレッチです。股関節のケアをまとめた冊子に載っている動きですが、股関節の前側=腸腰筋のまわりを伸ばすものなので、ここで紹介します。ヨガでいう、ランジ・イージーバージョンです。
- 片脚の膝を床につける
- 骨盤を前へ移動させて、股関節の前側を伸ばす
- 上体はまっすぐ。腰が反らないように注意する
- 反対の脚も同じように

ストレッチの時間は、資料によって違いました。
- 日本理学療法士協会の資料:5〜10秒
- e-ヘルスネット:20秒以上(一般的なストレッチの原則として)
なので、まずは5〜10秒から。慣れて痛みがなければ、20秒を目指す——くらいがちょうどいいと思います。バランスが取りにくいときは、椅子などにつかまってもかまわないそうです。
③ 寝て片膝を抱える(腰まわりを「ゆるめる」)
こちらは、日本理学療法士協会の「理学療法ハンドブック シリーズ3 腰痛」にある体操です。
- 仰向けに寝る
- 息を吐きながら、片脚を抱えて、膝を肩に近づけるようにする
- そのまま20秒
- おなかの力を抜いて、お尻や腰が伸びるのを感じる
- もう片方の脚も同じように

厳密には、腸腰筋そのもののストレッチではなく、お尻や腰をゆるめる体操です。さきほどの「まず緩める」の、いちばん手軽な実践として紹介しました。
お風呂上がりは、相性がよさそう
日本理学療法士協会の資料には、太ももの前のストレッチについて「お風呂で温まりながら行うと行いやすくなります」という一文もありました。
夫はもともと、お風呂の前後にストレッチをしています。いまの習慣に、①〜③のどれかをひとつ足すだけなら、無理なく続けられそうです。
こんなときはやめて、受診を
最後に、いちばん大切なことです。
日本整形外科学会は、腰痛に次のような症状があるときは「放置したり自分で管理することは禁物で、すみやかに整形外科を受診」するよう呼びかけています。
- 安静にしていても痛みが軽くならない、しだいに悪化する
- 発熱している
- 脚がしびれる、力が入らない
- 尿漏れがする
ストレッチや運動は、あくまで「痛くない範囲で、体を気持ちよく動かす」ためのもの。痛みを我慢してまで続けるものではありません。
まとめ:膝が伸びなくても、腸腰筋はやさしく動かせる
今日のお話をまとめます。
- 腸腰筋は、下腹の奥から脚の付け根へ伸びる筋肉。大腰筋と腸骨筋を合わせた呼び名
- 名前の「腸」は、おなかの腸ではなく、**骨盤の骨「腸骨」**のこと
- 腰の背骨から脚の付け根まで伸びる、上半身と下半身をつなぐ長い筋肉
- 働きは、太ももを持ち上げることと、腰と骨盤を支えること
- 発達しているほど歩幅が広く、転倒のリスクが下がる
- 「膝の裏が伸びない」は、**太ももの裏(ハムストリングス)**という別の筋肉の話
- 慢性腰痛には運動療法が勧められているけれど、腰に持病がある人は「鍛える」より先に「緩める」
- 膝を曲げたままできる動きがある。→ ①椅子もも上げ、③寝て片膝を抱える
- 痛みが増したら中止。しびれ・発熱・悪化する痛みがあれば整形外科へ。手術歴がある人は主治医に相談を
「腸腰筋を鍛えなきゃ」と思っていた私が、調べて最後にたどり着いたのは、**「まず緩める。痛くない範囲で、少しずつ」**という、とてもやさしい答えでした。
今度、夫がお風呂から上がったら、椅子もも上げをひとつ、すすめてみようと思います。完璧じゃなくていい。今日はここまでで大丈夫——そんな気持ちで、続けてもらえたらうれしいです。
私自身も、次のヨガのレッスンでは、どこが動いているのかを思い浮かべながら「腸腰筋を意識して」みようと思います(ヨガの話は、私の毎日のヨガ習慣でも書いています)。

出典・参考
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「安全かつ効果的に『足腰』を鍛える方法」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-04-005.html - 厚生労働省 e-ヘルスネット「ストレッチングの実際」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/exercise/s-04-007.html - 厚生労働省「人体各器官名称」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000057136.pdf - 名倉武雄・山崎信寿「生体力学モデルによる大腰筋の機能解析」バイオメカニズム学会誌 Vol.24 No.3
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/24/3/24_KJ00003422229/_pdf - 安藤徳彦「下肢筋の機能解剖と歩行」日本義肢装具学会誌 Vol.15 No.3(1999年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspo1985/15/3/15_3_213/_pdf/-char/ja - 公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット「インナーマッスルの鍛え方」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shintai-training/inner-muscle-training.html - 日本整形外科学会・日本腰痛学会 監修「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00498/ - 公益社団法人日本理学療法士協会「理学療法ハンドブック シリーズ3 腰痛」
https://www.japanpt.or.jp/about_pt/asset/pdf/handbook03_whole_compressed.pdf - 公益社団法人日本理学療法士協会「理学療法ハンドブック シリーズ17 変形性股関節症」
https://www.japanpt.or.jp/activity/asset/pdf/handbook17_whole_compressed.pdf - 日本整形外科学会「腰痛」
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lumbago.html
※情報は2026年9月時点のものです。
記事内の情報は個人の体験と一般的な情報をもとにしたものであり、診断や治療を目的とするものではありません。腰や股関節に痛みがある方、手術を受けたことがある方、治療中の方は、運動を始める前に医師や理学療法士にご相談ください。運動中に痛みが増したり、しびれが出たりした場合は、すぐに中止してください。
【この記事を書いた人】
pon|管理栄養士・RYT200保有。医療施設での勤務経験を持つ40代主婦。
実体験をもとに、無理なく続けられる食と暮らしのヒントを発信しています。


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